妻の浮気現場に遭遇した話

男女の関係ほど複雑なものはありません。それが夫婦となれば尚更です。

夫婦というのは一見強固な絆で結ばれているように見えますが、この絆ほど脆くちぎれやすいものはないと、最近思い知らされました。


妻との結婚生活は今年で10年目になります。

簡単に馴れ初めを紹介すると、大学時代に同じゼミを受講していたのが縁で知り合い、在学期間中に婚約しました。

当時はそりゃ運命の恋人だと信じて疑わなかったし、これが最後の恋愛だと心に決めていました。当然向こうも同じ思いでいると僕は安易に考えていたのです。

僕らはあまりに幼く、世の中を知らないうちに伴侶を決めてしまいました。20代なんて言ったら一番遊びたい盛りです。でも在学期間中の婚約とあって周囲の仲間たちが心から祝福してくれた手前、この人をなんとか幸せにしなければという思いで僕は必死だったのです。

でも妻は僕を支えるどころか、自分の内なる欲求に素直に従いました。

ある日、僕が夜遅くに会社から帰宅すると、部屋の明かりがついていませんでした。それから3時間くらいしてようやく帰って来た妻は泥酔状態で、まともに話せないほど。どうやらクラブに行って散々飲んで帰って来たようです。彼女は派手な化粧をし、ブランド物の香水の匂いを漂わせていました。

一度ならまだしもそういうことが続きました。そんな盛り場に毎晩のように通えば、男と知り合わないわけがありません。正直浮気を疑いました。僕は現場を押さえようと、彼女が頻繁に出入りしているクラブに、内緒で赴きました。今日は残業で遅くなると前もって嘘の情報を与えておけば、妻も僕の帰りが遅いことの安心感から大胆な行動に打って出ると踏んだからです。

そのクラブを夜の7時頃からずっと見張っていました。しかし妻は現れません。8時30分を過ぎた頃合いで、店の従業員を捕まえて妻の写真を見せて「今日、この人来てます?」と訊ねてみたところ、答えはノーでした。僕は自分の取り越し苦労だったと胸を撫で下ろします。夫が残業している最中にクラブで男と遭って羽目を外すことはなかったことに安堵したのです。

もしかしたら今頃温かい夕飯でも作って待っているんじゃないか――そんなこそばゆい想像を抱きつつ家路を急ぎます。

自宅のアパートのドアを開けた時、妻が血相変えて飛び出してきました。「今日は遅くなるって言ったじゃない」、髪を乱して胸元を大きくはだけさせています。僕は胸の鼓動が早くなるのを感じました。と同時に確信的な直感が脳裏をよぎります。まさか……。

その時、ドタドタと部屋の奥で物音が聞こえました。制止する妻を振り払って奥へ進むと、下半身裸の見たこともない若い男が、今まさにベランダから外へ脱出するところだったのです。逃走する男を追い掛けようと走り出す僕の体を妻が押し留めます。僕はその手を振り払って妻の頬をぶちました。

結婚以来、僕が初めて妻に手を挙げた瞬間です。

そしてそれが最後です。

もう妻とはまともに話すことはなくなりました。現在、離婚調停中です。